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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)1782号 判決

原告(反訴被告)

平田栄之

被告(反訴原告)

ギオン自動車株式会社

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金六九万八八〇〇円及び内金六三万八八〇〇円に対する昭和五八年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し金七万〇七二八円及び内金六万四七二八円に対する昭和五八年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の請求及び反訴原告(被告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを四分し、その三を被告(反訴原告)の、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴について

(一)  請求の趣旨

1 被告(反訴原告、以下被告という。)は原告(反訴被告、以下原告という。)に対し、金一二〇万〇六一〇円及び内金一一〇万〇六一〇円に対する昭和五八年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴について

(一)  請求の趣旨

1 原告は被告に対し、金三七万三六四四円及び内金三二万三六四四円に対する昭和五八年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

3 仮執行宣言

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴について

(一)  請求原因

1 本件事故の発生

(1) 日時 昭和五八年三月二六日午前八時五分頃

(2) 場所 京都市中京区烏丸通丸太町交差点

(3) 加害車 普通乗用自動車(タクシー、京五五う九四三〇号、以下被告車という。)

運転者 木下慶司こと李基洪

(4) 被害車 普通乗用自動車(滋五六つ四七三三号、以下原告車という。)

運転者 原告

(5) 事故の態様 原告車が烏丸通を南進して前記交差点中央部を進行していたところ、南から東へ右折しようとした被告車が同車の右前部を原告車の右側後部に激しく衝突させ、その衝撃により原告車が右へハンドルをとられて対向車線に入り、同線を北進中の山下正則運転の軽トラツク前部と接触し、次いで岩上一雄運転の普通乗用自動車の右後部と接触したうえ、歩道脇の街燈(鉄柱)に衝突して停止した。なお右事故により右岩上の車と松下美恵子の原動機付自転車が接触した。

(6) 事故の結果 右事故により原告車の右後部、左側面、前部が大破したほか、山下正則の車両(京都四〇す二七五一号)の前部、岩上一雄の車両(京五六る二〇二一号)の右後部、松下美恵子の原動機付自転車の後部が各破損した。

2 責任原因

被告は次のとおり民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(1) 右李は、交差点で右折する場合直進する車の動向に十分注視し、直進する車の進行を妨げないよう安全に右折する注意義務があるのに、これを怠つた過失がある。

(2) 被告はタクシー運転手として右李を使用し、右李が被告車を運転して被告の業務を執行中右のような過失により本件事故を発生させた。

3 原告の損害

原告車修理代 金七九万八七九〇円

4 共同不法行為者間の求償関係

(1) 本件事故により山下正則はその車両の修理代金金一四万九一二〇円及び移動レツカー代金金一万七〇〇〇円の、岩上一雄はその車両の修理代金金一三万二〇〇〇円の、松下美恵子はその原動機付自転車の修理代金金三七〇〇円の各損害を被つたところ、原告はこれを昭和五八年五月一三日までにすべて支払つた。

(2) 被告と右李及び原告は本件事故に関し共同不法行為者の関係にあるところ、右李と原告の過失割合は右李一〇割、原告零であるから、原告は被告に対しその負担部分である右損害合計金三〇万一八二〇円につき求償権を行使する。

5 弁護士費用 金一〇万円

6 よつて原告は被告に対し右合計金一二〇万〇六一〇円及びそのうち弁護士費用を除いた金一一〇万〇六一〇円に対する不法行為の日の翌日である昭和五八年三月二七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因1(1)ないし(4)の事実は認める。

同1(5)の事実のうち原告車が烏丸通を南進して前記交差点中央部を進行していたこと、南から東へ右折しようとしていた被告車の右前部と原告車の右側後部が衝突したこと、原告車が衝突後、対向車線に進入し山下正則の車両、岩上一雄の車両に各接触したうえ、歩道脇の電柱に衝突して停止したことは認めるが、その余は否認する。

同1(6)の事実は不知。

同2の事実のうち被告が右李をタクシー運転手として使用していたことは認めるが、その余は否認する。

本件事故は原告の一方的過失によつて発生したものであつて、右李には何らの過失も存しない。即ち右李は当時前記交差点を南から東へ右折するため交差点中央部付近で被告車を停止させ烏丸通の対向車線上を南進する車両の通過を待つていたところ、原告が法定制限速度を大幅に超過する時速約八〇ないし九〇キロメートルの高速度で進行して来て交差点に進入した。ところで同交差点は変形しているため、南進する車両はハンドルを一旦左に切つて進路を左へ変え、交差点中央部でこれを右に切つてS字型に交差点を通過しなければならないところ、原告は、高速度のため適切にハンドル操作を行えず、停車している被告車と十分な車間距離を保てずに原告車を同交差点中央部に走行して原告車右側後部を被告車右前部に衝突させたものである。原告は右のように交差点における安全運転義務違反、速度違反、ハンドルブレーキ操作不適当の過失により本件事故を自ら招来したものである。

同3、4(1)、5の事実は不知。

同4(2)は争う。

(三)  抗弁

原告には前記のとおり交差点における安全運転義務違反、速度違反、ハンドルブレーキ操作不適当の過失があるから、原告の損害賠償額を算定するに当つてこれを斟酌すべきである。

(四)  再抗弁に対する認否

否認する。

二  反訴について

(一)  請求原因

1 本件事故の発生

(1) 日時 昭和五八年三月二六日午前八時五分頃

(2) 場所 京都市中京区烏丸通丸太町交差点

(3) 加害車 原告車

運転者 原告

(4) 被害車 被告車

運転者 右李

(5) 事故の態様 被告所有の被告車が烏丸通を北進し、前記交差点を南から東へ右折しようとして同交差点中央部で停止し、烏丸通を南進する対向車両の通過を待つていたところ、時速八〇ないし九〇キロメートルの速度で南進してきた原告車が同交差点中央部にさしかかつた際、同車の右側面後部を被告車の右前部に激しく衝突させた。

2 責任原因

原告は、原告車を運転中、本訴請求原因に対する認否欄記載のとおり交差点における安全運転義務違反、速度違反、ハンドルブレーキ操作不適当の過失により本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条に基づき本件事故により被告の被つた損害を賠償する責任がある。

3 被告の損害

本件事故により被告車は右前部が破損し、修理期間として七日を要したので、被告は左のとおりの損害を被つた。

(1) 車両修理費 金二一万五二七〇円

(2) 休車損害 金一〇万八三七四円

但し一日当りの休車料金一万五四八二円の七日分

(3) 弁護士費用 金五万円

4 よつて被告は原告に対し右損害金三七万三六四四円およびそのうち弁護士費用を除いた金三二万三六四四円に対する不法行為の日の翌日である昭和五八年三月二七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因1のうち(1)ないし(4)の事実は認め、(5)の事実は否認する。

同2、3の事実は否認する。

(三)  抗弁

右李には本訴請求原因2(1)記載のとおりの過失があるので、これを被告の損害賠償額の算定に当つて斟酌すべきである。

(四)  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証及び証人等各目録記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生及び責任について

本訴及び反訴請求原因1(1)ないし(4)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と原本の存在と成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、いずれも原告主張の写真であることに争いのない検甲第一ないし第六号証、弁論の全趣旨により被告主張の写真であることが認められる検乙第一ないし第九号証(但し撮影対象については当事者間に争いがない。)、証人木下慶司こと李基洪の証言(但し後記信用しない部分を除く)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、本件事故現場は南北に通じる烏丸通と東西に通じる丸太町通とが交わる信号機が設置されている交差点であること、同交差点はやや変形していて、烏丸通を南行する車両は同交差点を南進するためにはハンドルを一旦左に切り、交差点中央部でこれを右に切つて走行しなければならないこと、原告は本件事故当時原告車を運転し烏丸通を南に向かい時速約五〇キロメートルでその南行車線上を進行し同交差点に差しかかつた際、同交差点内の対向車線側の右折車線上を進行して来る被告車を発見したが同車は同交差点中央部の停止線付近で停止するものと考え、青色信号に従いそのまま同交差点内に進入したこと、原告は同交差点内の直進車線上を一旦ハンドルを左に切つた後交差点中央部付近でこれを右に切つて原告車を同一速度で進行しようとした瞬間、同交差点中央部の右停止線のやや東側付近で原告車右側後部に被告車右前部が衝突したこと(なお原告車が同交差点中央部付近に進行した頃信号の表示が黄色に変つた。)、その衝撃により原告は右へハンドルをとられ急制動の措置をとつたものの原告車が対向車線上に進出し、同線上を北進中の山下正則運転の普通乗用自動車の前部に、次いで岩上一雄運転の普通乗用自動車の右後部に各接触したうえ、対向車線側の歩道脇の電柱に衝突して停止したこと、なお右衝突により北進中の松下美恵子運転の原動機付自転車が急ブレーキをかけることを余儀なくされそのため路上に転倒したこと、原告は被告車と衝突して初めて被告車が同交差点内の右折車線上の停止線付近で停止することなくそのまま右折進行して来たことに気付いたこと、一方被告はそのころ烏丸通を被告車を運転し北に向かい進行して同交差点に差しかかり、同交差点を東に右折するため青色信号に従い同交差点内の右折車線上に進入して進行した際、同交差点に北方から進入しようとしている原告車を発見したもののそのまま右折進行し前記のように同車と衝突したことが認められ、証人木下慶司こと李基洪の証言のうち右認定に反する部分は直ちに信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、本件事故は右李が交差点で右折するに際し、前方から直進して来る車両の安全を十分確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、原告車の動静を十分確認しないまま漫然と右折進行した過失に基くものといわざるを得ない。そして被告が右李をタクシー運転手として使用していたことは当事者間に争いがないところ、証人木下慶司こと李基洪の証言によると右李は当時被告車を運転して被告の業務を執行中であつたことが認められるから、被告は民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

また前記認定の事実によると原告にも交差点を進行するに際し、交差点内の右折車両等の安全を十分確認するのは勿論安全な速度と方法で進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、右折進行して来る被告車の動静を十分確認しないまま漫然と同一速度で同一進路を進行した過失が認められ、原告は民法七〇九条に基づき本件事故により被告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

そして前記認定の本件事故の態様等に鑑みると原告と右李との本件事故についての過失割合は原告二割、右李八割とするのが相当である。

二  原告の損害等

(一)  原告車修理代

原本の存在と成立に争いのない甲第二号証及び原告本人尋問の結果によると、本件事故により原告所有の原告車が破損し、その修理費として金七九万八五〇〇円を要したことが認められる。

ところで前記認定の割合の原告の過失(二割)を賠償額の算定に当つて斟酌するのが相当と認められるので、過失相殺するときは、原告の損害額は金六三万八八〇〇円となる。

(二)  共同不法行為者間の求償関係

いずれも成立に争いのない甲第三号証の一ないし三、同第四、第五号証の各一、二(甲第三、第四号証の各一については原本の存在も争いがない。)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件事故により山下正則、岩上一雄各所有の車両及び松下美恵子所有の原動機付自転車が各破損し、このため右山下はその車両の修理代として金一四万九一二〇円を、移動レツカー代として金一万七〇〇〇円を、右山下はその車両の修理代として金一三万二〇〇〇円を、右松下はその原動機付自転車の修理代として金三七〇〇円をそれぞれ要したが、原告においてこれらを昭和五八年五月一三日までにすべて支払つたことが認められる。

ところで上記事実と前記事実関係のもとにおいては、被告と右李及び原告は右山下、岩上、松下に対し各自その被つた損害を賠償すべき義務があり、これは不真正連帯債務の関係にあるというべきであるが、原告が右山下、岩上、松下の損害を賠償した金額について求償関係が認められるための前提となる負担部分に関しては、被告と右李及び原告三名の関係においては右損害に関し突極的には直接の不法行為者である原告と右李に全責任があり同人らがこれを分担負担すべきものであるから、原告及び右李の過失割合に応じて定められる各負担部分がその全部であつて、被告の負担部分は零であると認めるのが相当である。

そうすると原告は右李に対してはともかく被告に対しては求債権を行使できないというべきである。

(三)  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟の提起追行を原告訴訟代理人に委ね、相当額の報酬の支払を約していることが認められるが、原告の求め得べき弁護士費用の額は金六万円と認めるのが相当である。

三  被告の損害

(一)  いずれも成立に争いのない乙第四ないし第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、証人阪口勝の証言により真正に成立したものと認められる同第二号証の二及び右証人の証言によると、本件事故により被告所有の被告車が破損し、その修理費として金二一万五二七〇円を要したこと、また被告は被告車を修理のためタクシーとして七日間使用できず、このため金一〇万八三七四円(一日当り休車料一万五四八二円の修理期間七日分)の利益を得ることができなかつたことが認められる。

ところで前記認定の割合の右李の過失(八割)を賠償額の算定に当つて斟酌するのが相当と認められるので、過失相殺するときは、被告の損害額は金六万四七二八円(一円未満切捨)となる。

(二)  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、被告は本件訴訟の追行を被告訴訟代理人に委ね、相当額の報酬の支払を約していることが認められるが、被告の求め得べき弁護士費用の額は金六〇〇〇円と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第で原告の本訴請求は被告に対し金六九万八八〇〇円及びうち弁護士費用を除いた金六三万八八〇〇円に対する不法行為の日の翌日である昭和五八年三月二七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、被告の反訴請求は金七万〇七二八円及びうち弁護士費用を除いた金六万四七二八円に対する不法行為の日の翌日である同年三月二七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山邦和)

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